コーチングとは?ティーチングとの違いとエフィカシーの高め方

コーチの画像

コーチングは、組織や個を強くするために欠かせない技術です。しかし日本では、傾聴や共感を軸とした成長促進の方法とした、誤った概念が拡がっています。

本当のコーチングは、認知科学に基づいて行われるものであり、人が生きるために備えた知覚を利用して、ゴールに連れていく技術です。

当記事では、真のコーチングの意味や役割、ゴール設定方法とゴール達成に必要なエフィカシーの高め方について説明します。

コーチングとは

馬車

コーチングとはゴールまで連れて行くスキル

コーチングとは、ゴール設計を手伝い、ゴールまで運んでいくスキルです。相手が部下であれクライアントであれ、ゴールまで導く役割を担える存在をコーチと呼びます。

例えば、1流のスポーツ選手には1流のコーチがつき、ゴールまで並走します。コーチングを学ぶのであれば、定めたゴールに連れて行くことが役割であることを認識しましょう。

コーチングの語源は馬車

コーチという言葉は、ハンガリーの都市コチで製造された馬車が由来です。馬車は、人を指定先まで送り届けることが役割であり、派生して「人をゴールまで連れて行く人」がコーチと呼ばれる存在になりました。

ちなみに、有名ブランドのCOACHのロゴに、馬車が記されていることはご存知でしょうか。大切なものを運ぶ存在としてCOACHを使ってほしいという想いが込められています。

コーチングとティーチングの対比は間違い

コーチングは、ティーチングとセットで語れられることが多いです。正解を提示して成長させるコーチングに対して、ティーチングは質問を通して相手に気づきを与える育成方法と言われます。

しかしながら、気づきを与えることを目的にすると、効果が低くなります。あくまでもコーチングはゴールまで連れて行くことが主眼であり、気付きを与えることは手段の1つだと心得ましょう。

コーチングで描くゴール設定

コーチの仕事は、ゴールまで連れて行くことにあります。ということは、ゴールがない場合はコーチングが不可能になるため、ゴールそのものの設計が必要なケースが存在します。

真のコーチングは、「相手にあったゴール」「そのゴールは絶対に達成できる!」の2つを与えます。

コンフォートゾーンをズラすゴール設定

ゴール設定でコンフォートゾーンをずらす

人間は、生命を維持するためにコンフォートゾーン(快適な状態)にいる性質があり、そこから離れようとすると、コンフォートゾーンに戻そうとする力『ホメオスタシス』が働きます。

人間が簡単には変われないのは、このコンフォートゾーンとホメオスタシスによる力が大きく、認知科学では広く知られた概念です。

コンフォートゾーンは生きるための性質なので無くすことはできず、ズラす・広げる以外の選択肢はありません。従って、ゾーンの位置をズラせるように高いところにゴール設計することが重要です。

ゴール設定は「現状の外側」であり「want to」

ゴール設定は、ビジネスの目標設定と大きく異なります。過去の知識や経験、実績から検討する目標設定と異なり、コーチングで言うゴールは過去の延長線から考えない「want to」です。

個人的に「よくわからないけど惹かれる」「強くそうなりたい」ものがゴールになり得ます。現状見える世界の外側にゴールを設計するため、道のりが鮮明なゴールはゴールではありません。

従って、コーチがゴールを押し付けてはいけません。ゴールに対して良い悪いの判断をせず、ゴールの高さや言語化にのみ言及して、want toのゴールを導き出しましょう。

一人でゴール設定することは難しい

ゴールは、外部環境や他人軸のはいるHave toから設計するものではありません。圧倒的に個人的なwant toから考えることが肝要であり、そんなゴール設定経験がないことから設定は困難を極めます。

欧米ではこのゴール設定は、コーチングのプロが行うことが当たりです。高次なゴールを作りたければ、プロか講習を受けたことのある人物に頼ることをおすすめします。

とはいえ、ゴールを探求すること自体が重要な要素なので、ボーっとしていると妄想してしまう理想の姿や禁止されていてもやってしまうことなど、様々な観点からゴールを探しましょう。

コーチングの本質はエフィカシーを高めること

エフィカシー

コーチングは技術よりもマインド重視

コーチングは、マインドを「アゲていく」ことを主眼としています。人がゴールに辿り着けない最大の理由は、自己そして他者からの×0.9コミュニケーションです。

自分で「自分じゃできない」「こんなゴール辿り着けない」と思い、他者から「無理だよ」「意味がない」「こっちのゴールのほうが良い」と言われ、推進力にブレーキがかかります。

推進力はゴール設計時が最も気持ちが高まり、余計な声で減衰していきます。従って、「できるできる!」「やれる!」と強烈にマインドを支える存在こそが重要であり不可欠です。

エフィカシーを高い状態にするのがコーチング

エフィカシーが高い人の特徴

  • 困難を厭わず高い目標を掲げてチャレンジする
  • 上手くいかなくても前向きな思考と行動に注力する
  • ゴール達成に必要な能力を自ら得ようと動く

エフィカシーとは、ゴールを達成するための自己能力についての自己評価を指す言葉であり、自己評価が高い状態を「エフィカシーが高い」と言います。

自分ができると思えている人は、どのような苦境苦難が訪れても、ゴールに向けて建設的な思考を働かせ、目標達成に向けた行動を次々と展開できます。

スポーツ選手のコーチが、選手よりも選手の未来を確信しゴールまでの道筋を作るように、ビジネス組織でもコーチングによってエフィカシーを高めると強い個人や組織を作れます。

根拠のない自信こそエフィカシーの正体

エフィカシーは、ゴール達成に向けた自分の能力評価を指しますが、もっと端的に言えば「根拠のない自信」です。

根拠のない自信を持つ人材が強いのは、なんとなく見聞きしたことがあると思います。

「なんかよくわからないけど、あの人の話を聞くとできる気がしてくる!」と言われたら、相当にコーチとしての素養がある証拠です。

エフィカシーの3つの高め方

エフィカシーの高め方

1.褒める

根拠のない自信=エフィカシーを育てる簡単な方法論は、「やらせる」「褒める」「感謝する」ことです。コーチが参考にしたい格言として、元帥海軍大将の山本五十六の言葉が有名です。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」山本五十六

褒めることが重要なのは、科学的観点でも明らかです。褒められると扁桃体がドーパミンを分泌して快楽をもたらし、やがて癖になって褒める行為を繰り返す→褒められる→自信がつくという良いループをもたらします。

2.セルフトークを作る

エフィカシーを高めるためには、言葉が大きな影響力を持ちます。発語している言葉だけでなく、声に出さない内なる言葉や無意識に心でつぶやく言葉すべてが重要です。

人は1日に1万~6万個の考えを持ち、そのうち80%はネガティブ、そして95%は前日の考えと同じです。

思考を占拠してしまう脳内の独り言を、ポジティブに変化していったらどうなるのか、その威力は計り知れません。

ゴール側から語りかけるトークを用意

コーチは、ゴールに連れて行くためのイメージとセルフトークを一緒に作っていきましょう。また、組織として個のエフィカシーを高める言葉=コーポレートトークも定めるべきです。

ゴールに対してエフィカシーが高まるトークを日頃から発生させることで、セルフイメージがどんどん高まり、根拠のない自信が高いまま維持できる好循環が生まれます。

アファメーションという認知科学を活用

アファメーションとは、言葉による思い込みづくりのことです。肯定的な自己暗示や説得を指し、なりたい自分に適した文言を繰り返し言う・見る・聞くことで健全に思い込みをつくります。

エフィカシーを高めるセルフトークは、このアファメーションを利用した技術です。良いトークに触れる機会が多くなるほど、根拠のない自信が増大し、ゴールへの臨場感(リアリティ)を高められます。

アファメーション活用のセルフトーク

  • 一人称で書く。「私」「私達」
  • 肯定的な表現のみ使う
  • 「達成している」側の言い回しにする
  • 過去形や未来形ではなく、現在進行形で語る
  • 比較にしない
  • 動きを表す言葉を使う
  • 情動を表す言葉を使う
  • 極力本人が好きな言葉を使う
  • 何度も修正する

3.小さな成功体験を積ませる

エフィカシーは根拠のない自信であり、自信は成功体験から生まれます。小さくても構わないので、連続的に成功体験を積ませてあげることでもエフィカシーは高まります。

成功は自分自身では自覚しにくいため、コーチによるフィードバックが重要です。ゴールに向けて達成できたこと、成長できたことを振り返る機会を積極的に創りましょう。

フィードバックの正しいやり方はこちら

余談:マインドやバイブスのカラクリ

営業組織などで、「マインド」「バイブス」という単語はよく使われます。一般的には脳筋族が使うワードのように思われていますが、認知科学的に正しい組織のアゲ方です。

高い目標に向けて、できるできる!と自分たちを鼓舞し、セルフトークによってゴールへの臨場感を高めていくことはコーチングが目指すものと同義です。

コンフォートゾーンも意図せず引き上げていくことができているため、マインドやバイブスを大事にすることは強い組織を作る上で非常に重要です。

強い組織を作る5つの原理原則はこちら

組織でコーチングするために必要なこと

メンバーのwant toに向き合う

会社は、個人のwanttoを叶えるための場所ではありません。給与よりも付加価値を出すべき雇用関係の場であり、そのために成長する必要もあります。

しかし、そのためにwantoに向き合わなくて良いとはなりません。なぜならば、個人意思にも向き合ったほうが、生産性が高まるという得があるからです。

面談などの仕組みでwantoを探し出し、受け止め、否定をせず、組織の目標と繋がる連結点を探すことが重要です。会社と個人、どちらも抽象度が高く高次なゴールがあれば必ず繋がりを見い出せます。

意義のトークでコーチングの威力を増大させる

3つの軸で仕事意義を話せるようにする

  1. 社会軸:社会への貢献、影響
  2. 市場軸:市場での自分たちの貢献、影響
  3. 会社軸:日々の活動での会社への貢献、影響

個人のゴールと、組織の目標をリンクさせるには、定量的なゴールだけだと不足が生じます。確からしい根拠で作った組織目標だけでは、個人のwanttoとのリンクに無理が生じるからです。

無理な連結は、個人のエフィカシーの低下を招くため、野心や情熱といった観点から意義目標を設計し、普段から語っておくべきです。

トップが野心や情熱から決める意義目標は、論理だけの数字より伝播しやすく、結果的に数字も追いやすくなる合理の利点があるため、3つの軸から語れる意義のトークを作りましょう。

エフィカシーを高められる人材を要職につかせる

エフィカシーが高い組織は、コレクティブエフィカシーや集団的エフィカシー状態と言われ、チームの中に「自分たちは必ずできる」という勢い=モメンタムを生みます。

自分たちであれば、野心的な目標を達成できる!と信じさせることのできる人材は非常に希少であり、要職に就かせることで更に力を発揮します。

才能でできてしまう人もいますが、モメンタムを発生させるためには、コーチングによってエフィカシーを高める重要性を認識させて、体現できる人材を管理職に引き上げていきましょう。

コーチングの5つの注意点

愚痴や文句に対しては「ゴール」に立ち戻させる

コーチング相手が、愚痴や文句を言っている場合は、プロセスではなくゴールについて話し合いましょう。不満を唱えるのは、ゴールに向かう過程で重要なことだと理解できていないからです。

コーチングは、ゴールまで連れて行く技術であり、相手をただただ支持するだけでは務まりません。ゴールに真摯になり、ゴールに連れていくために必要であることを何度も伝えましょう。

他人との比較を自己評価に絡めさせない

コーチングの本質がエフィカシーを高めることにあるため、自己評価を下げるような思考に陥らせないように注意が必要です。最も顕著なサゲ要因は、他者との比較です。

「Aさんがものすごい人脈を持っていることを知って自己肯定感が下がった」
「他部署に業績で負けている」
「自分のほうが頑張っているのに、あいつが間違ったことで評価されている」

など、外部環境の評価や、自分が自分に下す評価によって一喜一憂することはエフィカシーの妨げになります。ゴールに向けて自分はどうなのかに集中させるように、諭しましょう。

バイアスに留意する

ゴールが設計されると、コーチング相手はゴールまでの道筋を想像し、過去の経験や知識から、様々な事案に盲目的になってしまいます。

バイアスに無自覚なままだと、本来ゴール達成に必要なはずの工程に否定的になったり、新しい行動を阻むなど誤った概念に支配されます。

コーチングはゴールまで運んでいくことに真髄があるため、ゴールに必要な工程への拒絶を感じたら、恐れずに進言しましょう。

正常性バイアスと認知バイアスの説明はこちら

能力への過信が見える前に予防

エフィカシーが高い人材は、つねに自分や自分の組織について肯定していることが多く、能力に過信して溺れていく場合もあります。

いき過ぎた過信は見下しを生んだり、新たな学びを無視して突き進むようになってしまいます。

過信を諌めることは高いエフィカシーの妨げになる可能性もありますが、適切な言動で自省を促しましょう。あくまでも、ゴールに連れて行くことがコーチングであり遠慮は不要です。

エフィカシーは万能ではなく能力が前提

コーチングやエフィカシーを覚えると、本来ゴールに向かうために必要だと認識できたスキルや能力が軽視されるようになります。

そもそもコーチングは、ある程度スペックが高い人にむけたノウハウであり、能力が低ければゴールに辿り着くことはできません。

エフィカシーを高めるコーチング、能力を高めるための学習やフィードバックはセットで意味を成すため、マインドだけに逃げ出さないように注意しましょう。

フィードバックの正しいやり方はこちら

エフィカシーが高い組織は勝手にゴールに向かう

メンバー全員のエフィカシーが高ければ、内なる動機に支えられ勝手に課題を解決していきます。組織を率いるのであれば、技術の前にエフィカシー高く進める目標が設定されているかを確認すべきです。

良いゴール設定があれば、エフィカシーを高めるセルフトークを定めさせ、必要な能力を身につけるアシストを行うことで、個も組織もゴールに向かっていけるようになります。

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